昨年末に、奈良県立民俗博物館で"翁の祭り"と題して数点の写真展示を行わせていただきましたが、この写真はそのときに展示したもののひとつです。大和地方に多い"おんだ祭り(=御田植祭)"に使用される翁面は、通説では能楽系ではなくて田楽系とされています。大和地方のおんだ祭りは、牛耕の所作が入るものが多いのが特徴(牛耕の所作のないものもある)になっていますが、牛耕は江戸初期に広く国中平野で行われるようになったと考えられており、したがって"おんだ祭り"も江戸時代初期に広まったと考えられています。それ以前(平安時代から室町時代まで)、農村で春の祝祭として広く行われていたのは実は"田楽"であり、"田楽"が衰退して"おんだ祭り"に変わっていく中で、その翁面が"おんだ祭り"に転用されたのではないかと考えられています。
中世に盛んであった"田楽"が近世になって消滅してしまった理由ははっきりとはわかりませんが、戦国末期から江戸初期にかけて、"田楽"や"風流踊り"があまりに盛んであったので、これを為政者が警戒して度々禁令が出されたということがあったらしく、その影響が大きかったのかもしれません。 |
