奈良盆地特有の祭事に、野神塚や樹木に藁製の蛇を巻きつけたり、牛馬の絵馬や農具の模型を奉納する野神行事があります。大和高田市今里のノモトは、農具の模型を一本木と呼ばれる榎の木に奉納する後者のタイプで、かつては人麿神社と同じようなスミツケの行事も行われていたようです(現在は行われていない)。この種の行事としては珍しく宝永7年(1710年)以降の記録が残っていることでも特筆され、またその由来書には天文年間(1532-1555)に始まったという詳細な記述まであるそうです。
ただし、私は野神という神様が、今もってよくわからないのです。野神などという神様は記紀に記載がなく、天照大神、大国主、イザナギなどいう由緒正しい名前があるわけでもなくて、なんだか得体が知れません。野神には藁製の蛇を樹木に巻きつけるものがあって、これを三輪山の蛇信仰と結びつける説が古くからありますが、私はむしろ農期に(神様の依り代として)樹木に神様が降りてくるという土俗信仰が大和盆地で広く行われていたということが重要と思います。蛇は雨を降らす龍神を表しているので、これは直接神の光臨を示すものであり、牛馬の農具や農具のミニチュアは、古墳時代の墳墓に捧げられた明器(死者への捧げ物)と発想が似ているように思います。 |